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10:00 17:00
Text: Hisashi Ikai
Photo: Masaaki Inoue(Bouillon)
Journal 004

余白に漂う自然の気配と
暮らしの奥行き。
亜熱帯のいえ

沖縄の建築家が家族との新しい生活のために建てた家。緩やかな時間が流れる大屋根の下には、南国の自然を身近に感じながらくつろぐ、ゆとりの空間が広がっていました。

Product
G:101
乾太くん
Architect / Designer
仲本昌司/ADeR

暮らしの感覚を体現する家。

「建築家だったら、自邸を建てるのは当たり前と思われるかもしれません。でも、機能性や実用面だけを優先するなら、マンション暮らしでも良いと昔は僕も思っていたんですよ。でも、家族を持ち、子供が成長していくに従って、自分の家を持ちたいと思いが強くなってきて。どうせ一軒家を建てるなら、理想の建築手法や暮らしの感覚を体現できる住まいを作りたいと真剣に考えるようになりました」

そう語るのは、沖縄で活動する建築家、仲本昌司さんです。仲本さんが沖縄本島南部の豊見城(とみぐすく)市に、自邸〈亜熱帯のいえ〉を建てたのは2年前のこと。

豊かな自然に囲まれた沖縄に住んでいるのだから、「海の見える場所」が良かったと話しますが、仲本さんが求めたのは単なる景観の良さだけではありません。海と空、風や豊かな緑という南国ならではの環境と家が密接に絡み合い、暮らすものと景色とが一体になって同じ時を刻んでいく。そんな様子を思い描いていたのです。

考えたのは、次世代の構造体。

2年ほどして仲本さんが見つけたのは、小高い斜面の上にぽかんと空いた土地。奥に向かって少し先細りになった変形地ながら、傾斜に面した長辺は遮るものまったくなく、遠方にはひと続きになった空と海が一面に広がっていました。

「これほど恵まれた環境に囲まれているなら、状況に逆らわずに素直に立ち上がる形を考えてみよう」。土地が持つポテンシャルや、風と光のうつろいを考慮して、イメージを膨らませていったという仲本さん。

7月から9月にかけては南東から北西に向けて風が抜けることを知り、建屋が風の通り道となる方法論を模索します。さらに沖縄特有の亜熱帯の気候に適した、現代の新しい構造として検討したのが、木造とコンクリート造を融合した混構造(こんこうぞう)と呼ばれる建築手法でした。

「沖縄といえば、台風やシロアリ被害に強い鉄筋コンクリート造が一般的です。確かにコンクリートの建物は強固な構造体であることに間違いないのですが、内部に熱や湿気が溜まりやすいのが難点。一方で、木造技術は時代とともに進化し、丈夫で虫喰いの少ない建材が増えましたし、なによりも木造の調湿機能は抜群です。ならば両者のメリットを活かし、沖縄の気候に適した家をつくってみようと思ったのです」

こうして鉄筋コンクリートの壁で外側をしっかりと囲い、強風にも耐えうる構造を確保しつつ、屋根と家の内側を木造で仕上げ、温もりに満ちたゆとりの居住空間が完成しました。

エアコンいらずの風のトンネル。

家のなかに足を踏み入れて真っ先に目を惹くのは、天井高4.7メートルの広々としたリビング+ダイニングです。隣り合う寝室や子供部屋の壁をあえて天井まで伸ばさずに一定の高さに抑え、軽やかな仕切りに止めることで、印象的な木造屋根の構造があらわに。柔らかな木肌が暮らしをやさしく覆い包み、その下で過ごすものの気持ちを和ませてくれます。

さらにリビング+ダイニングの両脇には大型の木製サッシを設置。窓を開けると、伝統の沖縄赤瓦をアレンジしたレンガ格子を通して清々しい空気がそよぎ、まさに“風のトンネル”になっていることを肌で感じることができます。

「沖縄の気候の特徴は比較的温暖で、ほかの地域と比べると年間を通した気温差もさほど大きくはありません。天候が穏やかな日ならば、窓を開放するだけで十分に過ごしやすいので、エアコンをつける必要もないんです」

家の内外の境界線となる玄関先とテラスには大きな水盤と植栽が設けられているが、風がそよぐたびに揺れ動く水面や枝葉のディテールを間近で感じられるのも、この家の魅力でしょう。

「僕は休みの日に、この水盤をぼんやり見ながらビールを飲む時間が好きですね。具体的な機能がなくても、こうした少し気が抜ける空間の“余白”を持つことも、とても大切だと思います」

メンテナンスのしやすさに感動。

新しい住まいに移ってから、家族の暮らしの振る舞いにも少しずつ変化が訪れたといいます。

「以前は妻の実家に2世帯で住んでいましたから、炊事&洗濯はもっぱら妻と義母にお願いしていました。僕と子供は『ご飯ができたよ』と呼ばれたら、2階からダイニングに降りていくという感じでした。でも、いまはこの一つの空間に全員がいるので、以前よりも互いに顔を合わせる位置にいますし、僕も家事を徐々に手伝うようになりましたね」

ガスとIHの両方で調理を楽しみたいという奥さまの要望で、ハイブリッドモデルを探していたところ、リンナイの〈G:LINE〉のデザインに一目惚れ。「妻は、炒めたり、焼いたりはガスで仕上げ、煮込み系はIHというように使い分けているそうです。僕はもっぱら簡単な手伝いと掃除を担当」

はにかみながら答える仲本さんは、ごとくが簡単に外れて汚れをすっと拭き取れることに日々感動しつつ、コンロ掃除を密かに楽しんでいるとか。

さらに浴室脇に〈乾太くん〉を導入したことで、仲本家には洗濯革命が起こったとも話します。

「小6と小3の息子2人は、どちらもサッカーをやっていいて、以前までは練習の翌日にすぐ試合となると、ユニフォームの洗濯&乾燥が間に合わないこともしばしば。でも、乾太くんがやってきてからは、洗濯と乾燥を同時進行できますし、なによりも乾燥時間が短く、ストレスフリーに。湿度の高い沖縄には欠かせない生活必需品だと思います」

人、環境とともに成長する家。

家族が暮らす居住から一段下がったエリアには、仲本さんのワークスペ−スも用意されています。落ち着いたダークトーンの空間は、クライアントと対面でじっくりと意見交換をしたり、一人で静かに考え事をするのにぴったりの場所だとか。

「亜熱帯気候にも適し、木の魅力も取り入れた建築がつくりたいと、頭のなかでぼんやりと描いていたイメージが、この家を実現したことで確信に変わりました。これからも沖縄だからできる家づくりや空間の可能性をもっと追求していきたいです」

〈亜熱帯のいえ〉は2度目の夏を迎え、建設時に整えた植栽も一段と大きくなった。「ゆくゆくは植栽と周辺の自然が融合し、家を覆い隠すくらいの勢いにまで育ってくれるといいですね」と、仲本さんも穏やかな表情で窓の外の緑を眺めます。子供たちの成長を見守るように、家も時間とともにゆっくりと変化していく様子を仲本さんは何よりも楽しみにしているようです。

1階
題名
亜熱帯のいえ
所在地
沖縄県豊見城市
主用途
住宅
設計
(株)ADeR
施工
ニライカナイ建設
構造
木造+鉄筋コンクリート造
階数
地上1階
建築面積
198.57㎡
延床面積
198.57㎡
設計期間
2019年5月~2020年7月
工事期間
2020年11月~2023年6月
Rinnnai使用機器
G:LINE 2口ガスドロップインコンロ
G:LINE 2口IHクッキングヒーター
ガス衣類乾燥機 乾太くん
食洗機
Architect / Designer
仲本昌司 / ADeR

1979年沖縄県生まれ。京都造形芸術大学卒業。髙﨑正治都市建築設計事務所、アトリエ・門口を経て、2017年にADeRを設立。「亜熱帯のいえ」で、建築九州賞作品賞(2024)、グッドデザイン賞(2024)、第10回沖縄建築賞 住宅建築部門 正賞(2024)を受賞する。

ADeR
Web:https://aderarchitects.com/
Instagram:https://www.instagram.com/ader_architects/