Photo: Shuhei Tonami
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人の感覚を取り戻す背伸びをしない平屋の暮らし。 葉山の家 IV
土地の風土や景色、人の身体や感覚と共鳴する、心地良い空間とはなにか。そんな視点から日々建築と向き合う堀部安嗣さん。そんな経験豊かな堀部さんが、自身のために建てたのは、小さな平屋の家でした。
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- DELICIA
- ECO ONE
- 乾太くん
- Architect / Designer
- 堀部安嗣建築設計事務所
暮らしを支える、土地の力。
多数の住宅を手がけてきたことで知られる建築家の堀部安嗣さんが「そろそろ自分のための家を」と、キャリア30周年を迎える年に初の自邸を完成させました。住宅建築を熟知する堀部さんがどんな発想から家を考えたのか、興味津々に話を聞くと、堀部さんが最初に思いを巡らせたのは、どんな家を建てるかではなく、どんな場所で暮らすかだったという意外な答えが返ってきました。

「建物の構成や配置など、設計の力でより良い居住環境を導き出すことも可能ですが、日当たりや風通し、水はけの良さや地盤の頑丈さといった環境条件はなにものにも変えがたく、心地よい日々の暮らしを根本から支えるもの。ですから、自邸を建てるのならば、まずは良い土地を見つけ、気候や風土を紐解きながら、環境と調和する家を目指したいと思ったんです」
事務所の所員でもある妻の美奈子さんと、家族として、そして建築に携わる者として、どこに自分たちの居場所をつくるのか、真剣に意見を交わし、鎌倉から熱海まで、一帯をくまなく探し求めました。ようやく見つけたのは、相模湾に面した美しい海岸線から緑豊かな丘陵地が広がる神奈川県葉山町の住宅地。かつて両親のために設計した小住宅からもほど近い、馴染みのある地域でした。

平屋が導き出す適切な収まり
土地探しには「平屋の家が建てられること」も、大切な条件の一つだったと堀部さんは言葉を繋ぎます。
「瓦屋根を載せた平屋の家は、木々の影にすっぽりと収まり、街並みに自然に溶け込みます。見た目に安心感を覚えることに加え、建物への負担が少なくて耐震性も上がりますし、コンパクトなだけに無駄なスペースを省くこともできるなど、性能、機能面において多くのメリットがあるんです」

こうして堀部さんは100坪余りの土地に、小ぶりな26坪の木造平屋を設計しました。土地の南面が少し傾斜して下がっている点を活用し、瓦葺きの小さな離れを庭の先に半分土に潜らせるように収めました。これによりリビングに立つと、テラス、そして庭の緑越しに、離れの瓦屋根がちょうど借景のように顔をのぞかせます。
「こうした風景を一日中眺めていられるのも、平屋ならでは。動物がつくる巣のように、住宅に必要なものもそこで暮らすものにとっての適切な収まり。佇まいの良さも決まるのではないでしょうか」
リビングの中央には6人がゆったりと座れる大きなテーブルを用意したほか、キッチン脇にも4人がちょうど収まるダイニングスペース。さらに、北側にはゆったりと思考を巡らせることができる畳敷きの小さな居室も用意されており、この家にはたくさんの居場所があるのも特徴です。


丁寧な設計で、無理をしない省エネを。
豊かな環境や立地の好条件を活かし、自然の恵みを享受する住まいを目指した堀部さんですが、決して自然至上主義でもなければ、厳格な環境倫理に基づいているわけでもないと話します。
「建築家としての経験を重ね、断熱や省エネといった住宅性能のことを考えるほどに、自然の偉大さを思い知り、環境と共生する先人たちの知恵に学ぶところも多い。とはいえ、最新技術やエネルギーにまったく頼らずに生きていくのは苦労が伴いますし、現代に生きる人として、新たな方法論も導き出したい。そのためにも、無理のない範囲でエネルギー効率を上げる仕組みや設備を設計のなかに組み入れていきました」

ソーラーパネルで電力を自給するほか、庭の散水や水風呂には井戸水を利用。一方で、リンナイのハイブリッド給湯器〈エコワン〉で作ったお湯は通常の入浴や家事で使用するほか、床下に巡らせて温水式床暖房にも活用しています。夏季の冷房は、屋根裏に設置したエアコンの冷気を一旦チェンバーに貯め、壁のスリットからゆっくりと吹き出すシステムを採用するなど、さまざまに工夫を重ねています。
「省エネルギー=我慢することのように思われがちですが、 “良いうつわ”となる家を丁寧に考えれば、エネルギーの削減と健やかな暮らしとを両立させることも可能なんですよ」

気候が穏やかな晴天の休日や、夜のとばりが下りたプライベートタイムには、リビングと庭の境界に設けた半戸外のサンルームで多くの時間を過ごします。屋根に巡らせた可動式の木製ルーバーを調整して適切な光を部屋に取り入れ、寒い冬にはストーブに薪を焚べて、その日、その時に最適な環境をアレンジしています。


身近な力と技を活用する。
リビングの壁面をぐるりと見渡すと、色がまばらで少し凹凸のある表情豊かな木材が細かく縦に走っている様子が印象的に映ります。これらは使われることのなかった白太と呼ばれる樹皮に近いヒノキの辺材をカットして、天日干ししたもの。建材としては、あまり使われない余剰材ながらも、実は調湿、蓄熱性に優れ、音響効果も上がることから、積極的に取り入れたとのこと。

ほかにも、廃棄される運命だった不揃いなレンガを積んだキッチンとリビングを仕切るパーティション、土壁を下塗りにした漆喰壁など、多様な素材や職人技が混在しているのもこの家の特徴です。
「都市部の住宅不足を軽減するため、戦後の日本の家づくりは、安価で均一な素材で、素早く建てることばかりに注力する“質よりも量”の時代が長く続きました。でも、いまはもっとゆっくりとした歩みで、暮らしの品質を考えてよい時代。建築の経験を通じて、僕はたくさんのものづくりの現場の方々と知り合っていたので、この家の実現には直接やりとりできる生産者や職人さんの力をお借りしました。特別なことをしているように思われるかもしれませんが、これぞというおいしい料理を食べたいときに、産地直送の食材を選ぶ感覚に似ているような気がします」
国産の天然素材、匠たちの手仕事に敬意を払いながら、家の主役となるしつらえを整えていく。同時に、近代以降に開発された透湿防水シートや構造用金物といった新建材を脇役として活用。新旧の技術や素材を適材適所で使い分けながら、いまの自分ができる最良の家づくりの手法を導き出しました。


日常の意識に変化をもたらす家。
東京から葉山に移り住んで、まもなく2年。この家は普遍の時の流れをひっそりと傍らで見つめながら、堀部さんたちの生活に少しずつ、確実な変化を与えています。
「以前は事務所の近くに暮らしていたため、ぎりぎりまで仕事をして、食事は近場で手っ取り早く済ましてしまうことも多々ありました。でも、葉山に越してからは生活サイクルが変わり、早朝に起床。リンナイ〈デリシア〉を軸にオリジナルで設計したキッチンで朝晩の食事をつくり、ゆっくりと食べるようになりました。食後にはサンルームや和室に移動して、ぼんやりと過ごすことも。何より変わったのは、睡眠の質かもしれません」

堀部さんの快眠を手助けしているのが、自宅内に設けたサウナです。ヒノキの丸太を配したサウナルームのすぐ脇には、外気浴を堪能する小さなテラスも用意。高野槙(コウヤマキ)でつくった浴槽に井戸水が直接注ぎ、窓を全開放して2日に1回のペースで“ととのい”を楽しんでいるとのこと。
「自ら設計した自邸を前に言うのはおこがましいかもしれませんが、建築は人の暮らしや態度を変え、日常に安らぎを与えるということを強く実感しています。この家で暮らすようになって、さらに僕は建築が好きになりました」
うつろう光や風と戯れ、自分らしい感覚を取り戻したという堀部さん。実体験をもとに、今後さらに魅力的な住宅を手がけていくのでしょう。

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- 題名
- 葉山の家 Ⅳ
- 所在地
- 神奈川県三浦郡葉山町
- 主用途
- 住宅
- 設計
- 堀部安嗣建築設計事務所
- 施工
- デライトフル
- 主体構造・構法
- 木造在来工法
- 階数
- 平屋
- 建築面積
- 115.81㎡
- 延床面積
- 111.09㎡
- 設計期間
- 2023年2月〜2023年6月
- 工事期間
- 2023年6月〜2024年10月
- Rinnai使用機器
- ガスコンロ DELICIA
ガス衣類乾燥機 乾太くん
ハイブリッド給湯・暖房システム ECO ONE
1967年神奈川県生まれ。筑波大学芸術専門学群環境デザインコース卒業。益子アトリエにて益子義弘に師事した後、94年堀部安嗣建築設計事務所を設立。代表作に「牛久のギャラリー」「竹林寺納骨堂」「讃岐緑想」など。で日本建築学会賞、20年に「立ち去りがたい建築」で毎日伝承を受賞する。現在は放送大学教授も務める。近著に『建築と利他』『堀部安嗣作品集I、II、III』『住まいの基本を考える』など。




