Photo:Masaaki Inoue(Bouillon)
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ただ海を眺めるという
ミニマムで贅沢な暮らし。
真謝原の家
快適に暮らすことを夢見て、南国移住を決めた陶芸家夫妻。大きな窓の傍に佇み、目前に広がる海と空が様子を眺めながら2人が過ごす「普通だけど、最高な時間が流れる家」にお邪魔しました。
- Product
- G:101
- 乾太くん
- Architect / Designer
- 五十嵐敏恭/STUDIO COCHI ARCHITECTS

突然始まった家づくり
「ナカムラケノシゴト」という屋号で、2013年より夫婦で陶芸家として活動する中村桜士さんとナカムラサトミさん。元は東京で暮らしていた2人が沖縄への移住したのは2018年のことでした。きっかけは極度の寒がりのサトミさんが、結婚以来ずっとできるだけ暖かい気候の場所に引っ越したいって訴え続けていたことでした。
ろくろと窯さえあれば、作陶の仕事はどこでもできる。そんな自由な感覚で中村さんたちは沖縄に引っ越しを決め、まずは本島中部の読谷村で見つけた米軍人向け住宅で借りて暮らし始めます。
「東京にいた頃は、築50年以上の古い木造住宅をDIYでアレンジしながら暮らしていました。でも、沖縄の家はコンクリート造のものが多く、自分たちの力で簡単にはリフォームもできません。さらに、中古のコンクリート住宅は意外と購入するにも高額になる。ならば、新築をしても良いのではと思うようになりました」

そんな折に、友人からの紹介で訪ねた建築家、五十嵐敏恭さんの自宅に魅了され「この人に建ててもらいたい!」と直感したそうです。
「ただ、建築家にお願いすることはまったく頭の中になかったので、『この予算でも家は建つんでしょうか?』という初心者レベルから相談を始めたことを覚えています」


無限に移ろう海の景色
建築は素人とはいえ、自分らしいライフスタイルを明確にもっている中村さん夫妻。さぞかし色々な意見を五十嵐さんに伝えたかと思いきや、提出した要望は「海が見えるミニマムな居住空間」というものだけだったそうです。

「私たちは、何よりもご飯を作って食べることが好きで、これまで住んでいた家でも、ほとんどキッチンとダイニングで過ごしていましたから、そのスペースだけで十分。持ち物もそれほど多くありませんし、何より広すぎると掃除が大変ですからね」
広さを求めない一方で、2人がこだわったのが景観でした。時間をかけて見つけた土地は、南東に広がる海原を見渡すことができる高台。周辺集落からも少し離れていて、目の前に広がる大自然を独り占めすることができます。

「ずっと海だけを見て過ごすのは退屈に感じるのではとも思っていましたが、この場所から見える風景は一瞬たりとも同じじゃないんです。昼間は青く澄んだ海面に夜になると月光をきらきらと反射し、朝方にはぼんやり霞むと空と海の境界線がなくなって一つになる。時とともに景色が移ろうのは当然のことなんですが、そんな当たり前のことが最高に美しいと感じました」

コンパクトな空間を有効に活用。
中村さんが求める小さな空間に、いかに豊かな環境を最大限に取り入れるか。五十嵐さんが考えたのは、プライバシーの調和を丁寧に読み解きながら、土地に対して緩くくの字に折れ曲がったような建屋でした。1階には、半屋外のピロティの両脇に2つの工房を設置。2階には、大きなガラス窓を持つ開放的なワンルームを構え、その脇に来沖した友人が気兼ねなく宿泊できるように、エントランスと水回りを別にした小さな客間も用意しました。

23㎡とコンパクトながら、海を一望する大窓を構えるリビング&ダイニングで合理的かつ快適に過ごせるようにと構造体を有効に活用。特に凹凸をつけてコンクリートを研ぎ出してこしらえたキッチンカウンターやベンチシートは圧巻です。
「予算を抑えるために、この研ぎ出しは自分たちで仕上げました。作業そのものは想像以上に大変でしたが、いまではそれも良い思い出ですね」

本来の目的を考えれば明らかにオーバーサイズなカウンターやベンチだが、生じた余白に自作のうつわを飾ったり、寝転んで休んでみたりと、状況に応じて自由に使い分けられるのが楽しいと話す。そんな2人の脇をすっと愛猫のキジロウ(3歳)が無言で通り過ぎていきます。
「なによりも一番この余白を楽しんでいるのは、この子でしょうね」と、顔を見合わせ笑う中村さんたち。そんな瞬間に、〈乾太くん〉が衣類乾燥の完了を知らせます。
「沖縄に越して以来、猛烈な湿気で洗濯物が乾かず頭を悩ませていましたが、乾太くんを手に入れてからは毎度の洗濯が楽しみになりました。この家のなかで一番満足している買い物かもしれません」


共感し合う、うつわとキッチン
この家に暮らし始めて4年目。中村さんたちの暮らしに変化はあったのでしょうか。
「ずっと平屋に住み、うつわづくりをしていたので、生活と仕事が同じ目線でした。でもここに越してからは、1階で作業をして2階で暮らしているので、気持ちの切り替えができるようになったような気がします」
また、周辺に商店がないことから、それまで毎日のように出かけていた食料の買い出しも1週間に一度のペースに。二人にとって食事の時間がより楽しく、大切なものになったと話します。
「ずっと憧れていた〈G:LINE〉を入れたのは大正解でしたね。シンプルで質実剛健なかたちも好きですが、実際に使ってみると操作性が良く、メンテナンスも楽なのでとても重宝しています」

直線的でモノトーン、機能的に収納できる自身のうつわとの相性も抜群だとか。料理は主に妻のサトミさんの担当ですが、朝は大の苦手。そのため、朝食だけは桜士(夫)さんにお願いして、ごはんの準備ができたら起こしてもらっているとのこと。なんとも微笑ましく、仲睦まじい夫婦の暮らしが目に浮かびます。


物事を柔軟に受け入れるということ
メインルームの隣にある小部屋は、将来的にゲストルーム以上のものになる可能性を秘めているとも話す中村さん。
「当初は来客時に、私たちもプライバシーを守れるようにと別のエントランスや水回りを用意したものです。でもいまは自分たちの作品を並べてギャラリーショップのように使うことも視野に入れ始めました。また、歳をとって思うように作陶ができなくなったら、宿泊施設として外部のお客さんを招き入れてもよいかもしれませんね」
沖縄に移住してから、日々を健やかに過ごしながら「状況を受け入れ、柔軟に対応する力を学んだ」と、ライフスタイルにもさらなる変化があった様子。
「この島に流れている時間はとてもゆったり、のんびりとしていますから、予定通りにいかないことも多いんです。最初の頃はあまりにルーズさに驚いていましたが、次第に自分でなんとかしなくてはと思うように。それが影響してか、自分たちも未来をフレキシブルに描くようになってきましたね」
姿かたちは変えることなく、ライフステージに合わせて何かしらの新しい使い方が考えられる。そんなのびしろと奥行きをもって、この家は悠然と中村さんたちの毎日を見守り続けます。




- 題名
- 真謝原の家
- 所在地
- 沖縄県南城市
- 主用途
- 住宅
- 設計
- 五十嵐敏恭/STUDIO COCHI ARCHITECTS
- 施工
- ファンシェア株式会社
- 構造
- 壁式鉄筋コンクリート造
- 階数
- 地上2階
- 建築面積
- 48.22㎡
- 延床面積
- 65.80㎡
- 設計期間
- 2019年8月〜2020年4月
- 工事期間
- 2020年5月〜2021年3月
- Rinnai使用機器
- G:LINE 2口ガスドロップインコンロ
ガス衣類乾燥機 乾太くん
1984年埼玉県生まれ。2006年ものつくり大学建設学科卒業後、有限会社門一級建築士事務所に入社。2014 年に独立し、STUDIO COCHI ARCHITECTSを設立。 沖縄を拠点に、土地や環境、生活に適した住宅のあり方を追求し続ける。主な作品に「志堅原の家」「西崎の家」「具志頭の工房」などがある。





