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10:00 17:00
Text: Hisashi Ikai  Photo: Yuichiro Otsuka
Event Report 005

より良い住宅のつくり方。 Rinnai Aoyama イベントレポート

Rinnai Aoyamaのオープン1周年を記念して開催した「家を考える vol.3」。Rinnai のウェブジャーナル〈Inspiration〉でそれぞれが設計した住宅をご紹介した建築家、手嶋保さんと二俣公一さんが登壇。お二人と、良き住まいと建築のあり方について対話を重ねました。

ゲストスピーカー:手嶋保、二俣公一
モデレーター:猪飼尚司



Product
Architect / Designer
手嶋保建築事務所, ケース・ リアル

──住宅の設計をするとき、お二人は施主とどのような関係でいようと心がけていらっしゃいますか?

手嶋保さん(以下、手嶋):そもそも建主がいなければ家は建ちませんから、とても大切な存在であり、建築家はその人の暮らしを第一に考えるのも当然のこと。しかしながら、施主の希望をそのまま翻訳しているだけでは建築家の役割としては十分でありません。家は暮らす人が自身と向き合い、一個人の感覚を取り戻す場所ですから、建築家としては設計を通じて、新たな感動や驚きを与えていければと思っています。

 

二俣公一さん(以下、二俣):大勢いる建築家のなかで、僕を選び、依頼してくれた施主の期待に確実に答えたいという気持ちが基本。ですが、施主によって経験や知識、感覚はまちまちですから、すべての依頼内容が正しいとも限りません。クライアントとできる限り対等な関係を維持しながら、より良い状況を取捨選択していく。それを正直に相手に伝えることが建築家の役割であり、責任ではないでしょうか。

手嶋:最初は遠慮がちだったお施主さんも、プロジェクト終盤にかかると雄弁になってきますしね。僕は戦略といったものは持たず、正直に思った通りのことを伝えるようにしています。高い精神性のあるものづくりには説得力ありますし、そういう関係でいないと建物も良くならない。ですから、二俣さんと同じように施主との上下関係を考えたことはありません。フラットな関係を受け入れてくれる人が、僕のクライアントなんだと思います。

二俣:いまでこそ、できる限り喜怒哀楽なく、淡々とやりとりすることができるようになりましたが、20代の頃は、若造でも説得力があることをしようと躍起になっていましたね。互いに気持ちが強すぎると、バランスは崩れてしまう。さすがに竣工した時だけは嬉しさが顔に滲み出ていると思いますが、それまでは一定の距離を取り、冷静に振る舞うことを心がけています。

 

──キャリアのなかで住宅建築に対する意識の変化はありましたか?

手嶋:建主さんが発する言葉や思い描く世界観は、建築家の思考を大きく広げてくれます。昔はできる限り目立たないものをと設計を考えていましたが、建主の意識を読み解き、その意識に共感するという経験を重ねてきたことで、より柔軟な設計ができるようになったかもしれません。

二俣:建築家も人ですから、時代ごとの体験や感覚が少なからず設計に反映されると思います。しかし、商業建築とは違って住宅は10年、20年、30年と長い時間を過ごすもの。そのあいだ、十分に耐え得る丈夫さとともに、施主がずっと受け入れられる存在であるために、より慎重な調整を行うようになりました。

── 近年は食空間にこだわるお施主さんも多いようですが、キッチン周りの設計で気をつけていることは?

手嶋:住まい同様、料理に対する意識は建主ごとに異なります。ですが、キッチンは調理をするためだけにある場所ではなく、ほかの空間の要素と混じり合いながら、家全体の景色を形成していくと僕は考えているので、あまりこうでなければいけないとは決めつけずに、シチュエーションや場所に応じた設計を考えるようにしています。

 

二俣:僕も手嶋さん同様、空間全体と違和感なく、溶け込むようなキッチンをつくるように心がけています。強いていうなら、手入れのしやすさや、汚れがつきにくい工夫など、維持・管理には多少なりとも気を遣っているかもしれませんね。

── そもそもお二人が建築の道を目指したきっかけはなんだったのでしょう?

手嶋:僕は福岡の田舎育ちなんですが、幼い頃に親が自宅を建てまして。その影響でしょうか、小学校2年生のときに、『住まいの設計』*1という雑誌をふいに買ったんです。自宅の現場に来る大工さんの仕事は朝も早くて大変そうだけど、雑誌に出てくる設計技師はなんだか格好良く映って。あまり手先が器用な方ではありませんでしたが、絵を描くのは好き。ですから、新聞の折込広告で見つけた住宅の間取り図を写したりしていました。それがきっかけになるのかな。

 

二俣:僕も幼い頃から手を動かすのは好きで、ものづくりに没頭して、気づけば何時間も過ぎていることもしばしばありました。高校生のとき、サッカーの部活の帰りに、地元の本屋に立ち寄ったときに、マリオ・ボッタの作品集がたまたま目に入ったんです。ページをめくると、建物だけじゃなく、家具や舞台美術まで幅広く手がけていて、その芸術的な世界に一気に心惹かれました。

 

手嶋:高校生でマリオ・ボッタってすごくないですか?

 

二俣:小2で『住まいの設計』の方が驚愕ですよ(笑)。

── 少し年の離れたお二人ですが、時代によって建築思想の変化を感じられることはありますか?

手嶋:日本は戦後復興の影響もあり、1950年代以降、古いものから新しいものへと転換するスクラップ&ビルドへと一気に転換。それがこの国の経済成長の一端を担ったのも事実ですが、反動として良い建物が残りにくい社会構造になってしまった。いまの時代に生きる僕たちは、建物単体の良さを追求するだけでなく、街並みや風景としてきちんと残り続ける良いものを作らなければいけないと感じています。

二俣:建て替えが主流の時代は、未熟でも完成してしまう建築が多かったように思いますが、景気が低迷したことで、冷静に物事を考え、本当に必要なものは何かという意識を持つ人も増えました。設計側も、大きな枠組みでの開発だけを望むのではなく、もっと時間をかけて小さな単位の積み重ねによって状況を変えていくことがこれから大切になってくる。

手嶋:昔ながらの建築家の人たちは「いまの若い人たちには元気がない」なんて言うかもしれませんが、僕からすれば若い世代の暮らしや環境に対するリテラシーは確実に上がっていて、平均値は高いですし、施主が発する言葉も、以前よりも明確になってきている。「きれいな家をつくってください」という依頼よりも、「ちゃんとした豊かな暮らしがしたい」という声をよく聞きますしね。

── リテラシーをさらに高めるには、どのような意識を持つべきでしょうか?

手嶋:大規模な再開発エリアは没個性でどことなく殺風景になりがちです。一方で個人商店が多いと街並みは建物一つひとつが個性的でバラバラだけど、不思議と活力に満ちている。やはり大切なのは、個人として都市のなかにどう存在するかなのでしょう。一部では、古民家や伝統建築の改修プロジェクトももてはやされていますが、保存に対する規制が厳しく、自由度が低いため、結局のところ住む人がいない。こうした保存行政に関しても、もっと柔軟な態度が必要だと思います。

 

二俣:そういったプロジェクトにおいては、手嶋さんのようなリテラシーの高い設計者、責任者がいたら、さして問題にはならないと思います。でも、実際にはそうではない人たちもいるから、やるべきことが議論されるはずが、やってはいけないことの基準を決めることが先行してしまうんですよね。

 

手嶋:いいものをつくるためには、闘いは必要。とっくみあいをすると言う意味ではなく、きちんと議論を交わすこと。自分の利益のためでなく、広く社会のため、そしてこれからの人たちのために。建築は、人の幸せのためにあるものですからね。

Speaker
手嶋 保  Tamotsu Teshima /手嶋保建築事務所

1963年福岡県生まれ。86年東和大学工学部建築工学科卒業。吉村順三設計事務所を経て、98年手嶋保建築事務所を設立。日本女子大学、早稲田大学芸術学校で教鞭を執る。著書に『「伊部の家」原図集』『MIAKI 三秋ホールの風景と建築』など。

www.tteshima.com

二俣 公一 Koichi Futatsumata/ケース・ リアル

空間・プロダクトデザイナー。福岡と東京を拠点に空間設計を軸とする「ケース・ リアル」とプロダクトデザインに特化する「KOICHI FUTATSUMATA STUDIO」を主宰。国内外でインテリア・建築から家具・プロダクトに至るまで多岐に渡るデザインを手がける。JCDアワード(現・日本空間デザイン賞)やFRAMEアワード、Design Anthologyアワードなど受賞歴多数。

www.casereal.com

www.futatsumata.com

Moderator
猪飼尚司

大学でジャーナリズムを専攻後、渡仏。帰国後フリーランスとして執筆、編集活動を開始。デザイン分野を中心に、建築、アート、工芸などの取材活動を国内外にて行うほか、企業コンサルティングや、展覧会の企画なども手がける。近年の主な仕事にセシリエ・マンツ個展『TRANSPOSE 発想のめぐり』ディレクションや中川正子著『みずのした』編集・発行、菊地流架個展『impromptu』企画・展示協力など。

脚注

*1 扶桑社が1960 年に創刊した住宅建築専門誌。多様な住宅実例に基づく家づくりの手法、ライフスタイルを紹介してきた。2023年に休刊。

 

トーク後には、ナカタマリアさんによる料理が振る舞われるなか 来場者と登壇者が自由に意見交換。マリアさんは、リンナイ青山内にあるG:LINEやDELICIAを駆使し、 フィンガーフードやリンナイ青山の一周年を記念したスペシャルクッキーを用意してくれました。