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10:00 17:00
Text: Yoshinao Yamada
Photo: Yansu
Event Report 001

二つの住まいから見る、
住宅に込めた思い。
Rinnai Aoyama イベントレポート

2025年7月10日、Rinnai Aoyamaで初のトークイベント「家を考える vol.1」が開催されました。今回は、そのイベントの模様をレポートします。

ゲストスピーカー:二俣公一
モデレーター:山田泰巨

Product
乾太くん
G:101
Architect / Designer
ケース・リアル

Rinnai Aoyamaで行われたはじめてのトークイベントに登壇したのは、Rinnai Aoyamaの設計を手がけたケース・リアル. 二俣公一さん。幅広く活躍する二俣さんだからこそ、住宅にはどんな思いを込めているのかをじっくりお話しいただきました。

親しい間柄だからこそのユニークなリクエスト。

すでに紹介した「深大寺の家」のクライアントである山田遊さんとは古い付き合いだと振り返るのは、デザイナーの二俣公一さん。南青山のIDÉE SHOPでバイヤーを務めていた山田さんが、二俣さんの初期作である電源タップ「CONCENTS」を扱ってくれたことがきっかけだったといいます。「まだメールもそこまで普及しておらず、山田さんからFAXで発注書が届くたびに納品していた時代です」。山田さんの独立後も、公私ともに交流を重ねてきました。

そんな山田さんから、ギャラリーのある家という少し地域に開いた住宅を設計してほしいと依頼を受けます。ユニークな内容もさることながらロケーションも特殊で、樹木を育てる生産緑地の一部が住宅地に転用された土地でした。山田さんが選んだのは、四面のうち二面が生産緑地として残る緑豊かな敷地。とはいえ、周辺には同時期に販売された土地に規格型の住宅が並びます。そのなかで建物は、個性豊かなベンガラ色に塗られました。

「当初から、山田さんより普段我々があまり使わないカラートーンを考えられないかというリクエストがありました。ベンガラは耐候性のある塗料で、機能的にも意味をもつことで採用を決めました。機能と意匠が合致せず、ただ意匠で色を選ぶことはありません。もう一つには敷地が赤土で知られる関東ローム層上にあることもありました。緑地との対比という意味でも、これまでチャレンジしたことのない色は面白いんじゃないかと思えたのです」

開かれた家をぐるりと一周つなげる。

建物は敷地いっぱいに配置せず、ゆとりを感じさせました。駐車場になりそうなスペースも山田さんの意向で車を置かず、ギャラリーへ続くテラスに。ギャラリーも大きな引き戸でアプローチでき、玄関は別に設けました。上がり框は設けたものの、ギャラリー、リビング、キッチンは一体感をもって住空間のなかに溶け込みます。キッチン前のハイカウンターは土間側、床側にオリジナルのスツールを置き、目線の高さが揃うようにスツールの高さを調整しました。リビングのソファも一部は土足に面しており、土足のまま座ることもできます。「時代劇の呉服屋さんじゃないですが、ギャラリーにいらした方が框を上がると、より親しみをもって作品に触れることができます」と二俣さん。

一方でプライベートな空間は2階に。階段を上がるとセカンドリビングが広がり、両端に浴室と寝室を配置しました。ただ1階と明快に区切るのではなく、寝室からギャラリーに対して吹抜けを設けました。二俣さんから山田さんへ「もう一度開放しませんか」と提案をしたといいます。

「寝室から吹抜けを通じてギャラリーとつながることで、空間はぐるりと一周つながります。最もプライベートな寝室をあえて完全に閉じずに開きました。というのも吹き抜けはこの住まいのなかでも特に気持ちがいい空間。ですから寝室がそれを共有できる状況にした方が豊かな時間を過ごせると思うのです。かつ、ここはむくり屋根という少しカーブを描いて落ちていく形を採用しています。視覚的な効果もあり、ストレートな天井よりおおらかな印象を与えてくれます」

デザインの造形が深いからこそ提案をしたい。

ベンガラといい、むくり屋根といい、和の要素を感じさせる空間です。玉砂利が混じる土間も、ベンガラ色の小石を含む表情が空間とリンクします。

「これまでも商業空間で和の要素をもつ空間も設計してきました。しかし和一辺倒ということはなく、いまの解釈で咀嚼し、和でも洋でもないハイブリッドな面白さを表現できないかと考えています。屋根はシルバーの板金ですが、こうした組み合わせでハイブリッドな状態をイメージしています。山田さんがデザインに造詣の深い方というのもあるかもしれません」

住宅は細かなディテールを突き詰めてしまうと、二俣さん。全体を見ながら、空間性や使い勝手、素材の心地よさを重ねながら考えていくといいます。

住宅は使うほどに馴染む場所でありたい。

そして、今回のトークイベントではじめて発表するのが二俣さんの自邸です。これまで発表を控えてきましたが、住宅をテーマとするなかで自邸に触れることとしたといいます。敷地には、二俣さんの家族が暮らす母屋、奥様のご両親が暮らす離れ、そしてゲスト用の小屋の三棟が建ちます。屋根はいずれも中央に向かって傾斜し、中庭を囲むように三棟を配置しました。建物はほぼ平屋ですが、母屋の一部は三層。敷地が傾斜していることから半階ほど床を下げたガレージに二層が重なります。検討初期からかなりの時間を要したそうですが、プランは当初からほぼ変わらないといいます。

「通常業務のなかで自邸の作業を差し込むのは難しくて。もともと手書きでスタディするものの、この時はとくにたくさん書きました。もちろん住宅は、建て方、構造、コンセプトがとても重要。けれどあくまで施主が自身の場所だと思えることが大切で、道具感や馴染み方を重視します。その意味で使うほどに馴染む場所であってほしい。僕が家にいる時間よりも家族の時間のほうが長いので、家族を施主としてイメージした部分はあります」

親密なスケール感が生み出す大切な場所

自邸はキッチンダイニングを中心に吹抜けを設け、各部屋が広がります。せっかく家族がいっしょにいる時間は部屋にこもることなく、個室にいても気配を感じられるように子ども部屋のドアは窓付きです。吹き抜けに面した中二階のオープンスペースは仕事場。出張も多いからこそ、自宅にいるときは常に家族といる感覚を大切にしたいと言います。友人が訪れると、リビングでギュウギュウになって飲む時間が楽しいと二俣さん。「とても大切な場所になっています」と、言葉をつなぎます。

「人のスケール感は時代が変わっても大きく変わりません。居心地いい場所、違和感を感じずに馴染む場所は、オーバースケールではなくヒューマンスケールでありたい。スケール感を大切にしたかったので、天井もあえて低く、コンパクトに作っています。また、通常の設計と違って自分にすべての決定権があることから現場で細かく決めたことも多々あります」

二俣さんといえばディテールの妙で知られますが、特に自邸では他でやらないディテールをいくつも作りました。たとえば階段の手すりは壁に取り付けず、床から立ち上げています。玄関もガラスで区切り、バッファを設けました。リビングの大きな窓は十字のサッシ枠を採用するなど、いつもの二俣さんが作る空間よりも線が多い印象です。家具の考え方が住宅に延長した印象もあります。

「あえてミニマルにせず、シームレスにつながっているようでいちいち造作を作りました。自分でもよくやったと思うのは、屋根の鼻隠しと雨樋を兼ねて、さらに竪樋までを一体で制作したことです。亜鉛メッキの手すり、設備スペースなどはもう趣味の世界ですが、自分が無理すればいくらでもデザインをできるというので無理をしてしまいました」

多角的な視点で選ぶユースフルな機器。

「商業空間や住宅でももちろん使いますが、個人的に上から強い光が落ちてくるのが得意ではありません。住宅はろうそくの灯りのように地明かりでいいのではないかと以前から考えていて、自邸で試しました。当時は特にそう考えていたので、ボール球を納めるブラケット照明をメーカーと開発しています。試作的に取り入れ、山田さんの住宅にも使用しました。そこから6年をかけて考え続け、まもなくまもなくテーブルランプへと展開したプロダクトの販売も始まります」

施主の思いを受け止める住宅を。

自邸の敷地ではかつて、二俣さんの義両親が八百屋を営んでいました。八百屋、そしてそれを取り囲むようにL型の倉庫があり、そのレイアウトを現在の住まいでも踏襲しています。八百屋のあった場に義両親の住まいがあり、かつて店頭でふたりが座っていた場所にリビングのソファがあります。

「近くに小学校があり、義両親の八百屋は子どもたちが集う中継地点となっていました。うちの子どもを含め、地域の子どもが親と待ち合わせして帰るような場所で。遊び場にもなっていて、僕ら家族も近くに家を借りていたこともあって思い出深い場所です。家は家族と作っていくものですが、僕も例外なくそうなりました。プランニングを妻に報告したり、子どもたちと工事現場に通っては職人さんにお茶を渡したり。実は娘が今年、大学の建築学科に進学しました。少しは影響があったのかなと思います」

建築、インテリア、プロダクトと、幅広くデザインを行う二俣さん。そのなかでも住宅の設計をどのように捉えているのでしょうか。「手数も多く、考えることも多い。施主の思いを受け止める住宅はやはり特別大変です」と二俣さんは笑います。

「他の仕事よりも施主との関係も近く、直接お話しする機会も多くなります。しかし僕らはあくまで設計者。住み手が何を必要としているかが重要で、話し合うほどに価値観は色濃く出ます。それを理解し、どのように表現するか。その掛け合いは面白くも、真っ向勝負ですからさまざまな厳しい状況に折り合いをつけていくことも時に必要です。だからこそうまくいくと満足度も高いのでしょうね」

多様な価値観があるからこそ住宅は面白い。そしてその価値観を重ねていくために、建築家と施主は数多くの打ち合わせを重ねます。Rinnai Aoyamaはさまざまなアイデアで、そのイメージを重ねていく作業をお手伝いします。二俣さんのこだわりが随所に活きた空間で、ぜひ住まいの可能性を膨らませてください

Speaker
二俣 公一/ケース・リアル

空間・プロダクトデザイナー。福岡と東京を拠点に空間設計を軸とする「ケース・ リアル」とプロダクトデザインに特化する「KOICHI FUTATSUMATA STUDIO」を主宰。国内外でインテリア・建築から家具・プロダクトに至るまで多岐に渡るデザインを手がける。JCDアワード(現・日本空間デザイン賞)やFRAMEアワード、Design Anthologyアワードなど受賞歴多数。
http://www.casereal.com/
http://www.futatsumata.com/

Moderator
山田 泰巨

1980年生まれ、北海道出身。出版社を経て、2017年からフリーランスの編集者ライターとして活動。建築、デザイン、アート、工芸、ファッションなどの分野で、雑誌、書籍、企業広報誌の編集執筆を行うほか、展覧会の企画にも協力。主な編著に『天童木工とジャパニーズモダン』『うつわ(石村由起子・著)』(ともに青幻舎)など。2024年よりポッドキャスト番組『デザインの手前』を始める。